一月三十日(火曜)

[#1字下げ]一月三十日(火曜)[#「一月三十日(火曜)」は中見出し] ゆっくり寝た。一時に三益・高杉・平野とで日日新聞へ昨日のアガリ全額二千三百何円を静岡大火の義捐金として持参した。二時に海上ビルの試写室へ。「最後の一兵まで」を見せて貰ふ。前半とてもいけない、居眠り数刻、後半稍々よろし。が、戦争物ってのは何うも困る。夕刻、築地の蜂竜へ、近衛文隆の入営送別会で行く。服部良一・原田・京極といふ顔ぶれ。近衛が、ディムプルを一壜封を切って呉れ、飲む。うまし。市丸があらはれたりして、たゞめちゃな賑かさであった。

[#1字下げ]一月三十一日(水曜)[#「一月三十一日(水曜)」は中見出し] 箱根へ。 十時頃眼がさめる。昨夜はディムプルを痛飲したが、流石に一流の酒である、今朝の気分快適である。二時半に迎へ来り、家を出る。行き当りバッタリの汽車に乗るつもり。丸ビルの伊東屋で原稿用紙をしこたま買ひ込む。四時二十五分の熱海行きに乗ると、増田叔母上が熱海行きで同車、小田原迄退屈しないで済む。小田原よりハイヤで、宮ノ下富士屋ホテルへ。七時を待ちかねて食堂へ。オルドヴルからとてもうまし。白葡萄酒小壜一本とり飲む。ビフテキプディングてものがうまかった。 箱根と来れば、先づじっくりと湯に浸るのが当然だが、ホテルと来ては、そのたのしみは、まるで無い、部屋のバスか、パノラマみたいな馬鹿気た風呂か。それに、畳の無いかなしさ、ハランバヒになれない、此の辛さ。たゞ、ひとへに食ひものゝいゝことだけに、すがりついてゐるわけ。いや全く、二ついゝことは無い/\。

 箱根富士屋ホテルにて。 富士屋ホテル――部屋の感じよろし。食事は満点。だがさて、ホテルのバスくらい悲しいものはあるまい、シャボンを使って濁った湯へドブリと浸る気持の悪さ。西洋人に迎合して、日本特有の温泉浴場を設備しない富士屋ホテルも嘲はれてあれ。(西洋行水と書いてルビ、バス)アンマが来た。ギシ/″\、ギチン/″\、寝台は鳴り通し、圧せばヘコむスプリングのおかげで、アンマの快感はゼロ。床《ユカ》の上へ蒲団をおろし、その上で揉ませる。アンマ曰く、「安いお方じゃありませんな、金がかゝってる。」そのうち揉まれてる鼻先へプーンとアンマの屁だ。心の中で僕、「これは辛い。」[#改段]

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